ストロング・マン


今度は別の意味で修也の方を向くことが出来ない。
どんな気持ちでって。


・・・そんなの考えたこともないよ。


しばらく顔をそらしたままでいると、


「郁。こっち向け。」


私を呼ぶ修也の声がした。どんな顔をすればいいか分からず、でもずっとそっぽを向いている訳にもいかないので、ゆっくりと修也の方を向いた。

私よりも高い位置にある顔を見てみると、やっぱりすごく真剣な顔をしてこちらを見ていた。
こんな修也の顔、見たことない。
すごく熱っぽく見つめてくるその瞳に、胸がトクンと波打った。


「郁が俺のこと悪友くらいにしか思ってないって知ってたよ。
でも俺は、郁の会社の先輩に誤解されていることを本当のことにしたい。

俺が、幸せにしてやりたい。」



これって告白なんだって気づくのに少し時間がかかった。てか、告白でいいんだよね?はっきりと好きって口にだされていないけど、この雰囲気と修也の真剣な顔を見れば、そういうことだと思う。この年になってそれが分からない程、私も鈍くはない。

でも告白だと自覚した途端、顔に熱が集まり、恥ずかしすぎて修也の顔を見ていることが出来なかった。
なんて言ったらいいか、全く分からない。告白されたときにここまで動揺したのは初めてだったから。

でも、


「私、修也のことそんな風に見たことない。」


これが今の正直な気持ちだった。
私の答えを聞いて修也がふっと笑ってまた口を開く。


「そんなの知ってるし、そう言うと思ってた。だから今度は本気で行く。
俺のこと友達じゃなくて、一人の男として考えてよ。今はさっき聞いた答えで十分だから。もし考えが変わったら聞かせて。」


そう言って修也は優しく微笑んだ。高校の時よりも成長したっていうこともあるけれど、修也のこんな一面を知らなくて、ずっと胸のドキドキがうるさくて、首を縦に振るのがやっとだった。





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