ストロング・マン
いい人と一緒に居れば、お母さんも喜ぶ。
その一心でその人と付き合うのを決めた。でも、ちゃんと好きになっていたわけでもなかったから、すぐに上手くいかなくなって別れた。それからはその繰り返しで、きっかけなんてすっかり忘れていたんだ。
「お母さんが亡くなる直前にね、強い人と一緒になるのよって言われたんだ。
それがその当時は分からなくて。ただ寂しかったから、お母さんが喜ぶからと思って付き合ってた。
あたし、お母さんが早く亡くなっちゃったこと、許せてなくて、執着してたんだ。」
本当の自分についてやっと分かった時、心の中にまとわりついていた鎖にひびが入っていくのを感じた。
ちゃんと理解してみればとても子供じみたことで。お母さんが大好きで、手放したくなかっただけなんだ。
お母さんのせっかくの言葉を、鎖のようにしてしまったのは、紛れもない自分だ。
そう気づくと涙がぽろぽろと溢れてきて、同時に心が軽くなるのを感じた。
「修也、本当にありがとう。あたしはもう、大丈夫。
ねえ、修也。あたし、修也のことが」
「郁、ごめん。もういい?」
気づけば修也の熱い腕の中に私は居た。