粉雪
『待てって!
これで泣いてたら、最後の渡せないじゃん…。』


隼人は困ったように言いながら、あたしから時計を取り上げた。


そして代わりに、一番小さな箱を、あたしの手の平に乗せる。



『最後は誕生日な?
開けてみ?』


その箱を、ゆっくりと開けた。



「…嘘…!」


そこには、ダイヤの指輪が輝いていた。


波を打つような細身の土台に、大きなダイヤが一つと、

その左右に小さなダイヤが二つ。



『…ペアリングは出来ねぇけどな…。
ずっと、俺の女で居ろよ?』


「―――ッ!」


涙を堪えながら、何度も頷いた。



「…ありがと…!」



あたしが喜べば、隼人も喜んでくれる。


隼人の笑顔で、あたしも嬉しくなる。


そんな、関係だった。



あれから一切、子供の話はしていない。


だけどきっと、あたし達はお互いに、不安で仕方がなかったんだと思う。


あたしが笑っていれば…


あたしを笑わせていれば…


知らず知らずのうちに、あたし達はそんな風になっていた。



『…昔言ったの、覚えてる?
良い女は、良い物身に着けてないとダメだって。
ちーちゃん、すげぇ綺麗になったよ?』


「―――ッ!」


そう言いながら、あたしの左の薬指に指輪をはめ、キスをしてくれた。


まるで結婚式みたいで。


それは全部、隼人のおかげなんだよ。



『ちーちゃん、他の男に取られたら困るしね!(笑)』


「…馬鹿だね、隼人は…。」



そんなこと、あるわけないじゃん。


これからもずっと、あたしは隼人のだよ?



< 108 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop