粉雪
―プルルルル、プルルルル…

『ちーちゃん、終わった?』


通話ボタンを押した隼人は、ゆっくりと聞いてきた。



「うん、終わったよ。」


『…そっか、ご苦労さん。
てゆーか、今から言う場所に来れる?』


「…え?
何ソレ?」



こんなこと、今までなかったのに…。


戸惑うあたしに、隼人は言葉を続けた。



『ちょっと遠いけど、K市の山の上に廃ホテルあるの知ってるだろ?
何も聞かないで、そこに来て欲しい。』


「―――ッ!」


何が起こっているのかなんて、まるでわからなくて。


ただ、打ち鳴らす心臓の音が早い。



「K市の廃ホテルって、1時間以上掛かるよ?!」


だけど、これ以外に言葉が見つからなくて。



“何も聞かないし、何も言わない”


あたしにとって、これほど辛いことはない。



『うん、知ってる。
出来るだけ急いで?』


「…わかった。」


電話を切り、ため息をついた。


隼人は無事みたいだから、それだけは安心だ。


だけどそこに行く理由に、思い当たる節はない。


仕方なく急いで薄手の上着を羽織り、バッグを持って足早に裏口から出る。


これから迎える春を心待ちにするように、木々は緑で彩られ、

その景色を暖かな色に変えていた。


だけどあたしは、見ることもなく車に向かう。


ザワつく胸の、真実が知りたい。


呼ばれた理由なんてわかんないけど、きっと良いことじゃない気がするから。



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