粉雪
帰宅ラッシュも手伝って、国道を走っているのにあまりスピードは出せなかった。


何となく不安になり、煙草の本数ばかりが増える。


そして、聴いてもいない音楽のボリュームを上げた。


街を抜けると、次第に辺りは閑散としだす。


だから余計に、あたしの不安を煽って。


次第に登り始める道に、すれ違う車は少ない。


一度も来た事がない山の中をグルグル回っていると、

オバケでも出そうに思ってしまう。


山の上に廃ホテルが見え、更にアクセルを踏んだ。




その場所は、いつ廃業になったかもわからないほど寂れていて。


だだっ広い駐車場に、一台だけ停められているのは隼人のセダンを発見し、

その横に車を止めた。


だけど、隼人の姿が見えない。



―バタン!

「隼人!!」


車を降りて声を上げると、辺りは山びこみたいにその声を復唱させた。



『おっ!来た来た!
待ちくたびれたじゃん!(笑)』


その声に導かれたように、向こうから隼人の声が聞かれ、振り返った。


あたしに笑顔を向けた隼人は、煙を吐き出して吸っていた煙草を放り投げた。



「…どこに居るのかと思った…。」


『暇だったから散策とかね。』


そう言うと、隼人はいたずらに笑った。



「一体何なの?!
こんな所まで呼び出して?!」


『ごめんごめん。
つーか、マツももーすぐ来るから!』



“マツ”は隼人が使っている舎弟みたいなものだ。


隼人の下で色々動いたりしているらしく、

あたしも話だけは何度か聞いたことがあった。


怒るあたしに、だけど隼人は何も言ってはくれなくて。



「それじゃ、答えになってないじゃん!!」


やっぱりあたしは、口を尖らせる。



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