粉雪
『―――オラ!
降りろよ!!』


『イヤー!!
殺さないで!!』


後部座席から、女の悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。


その姿を見て、あたしは思わず声を上げる。



「お母さん?!」


『―――ッ!』


引きづり降ろされたのは、紛れもなくあたしを捨てた母親だった。


だけどその姿は、昔の見る影もない。


一瞬ではわからないほどやつれ、まさにボロボロだった。



『…何で…』


目を見開くあたしと同じように、母親もまた、

言葉を失っているような顔でこちらを向いた。



「隼人!何コレ?!
どーゆーことなの?!」


慌てて隼人に詰め寄った。


だけど隼人は、その顔色を変えようとはしない。



『…ちーちゃんのお母さん、探し出した。
ちーちゃんはそこで見ててよ。
口出さないでな?』


「―――ッ!」


それだけ言うと、隼人は母親の方に足を進めた。



『どーもハジメマシテ。
本田ってモンです。』


そして不適に笑い、薄いサングラスを外し、その顔を母親に近づけた。



『アンタの債権、俺が一括して引き受けたんで、よろしく。』


「―――ッ!」



どーゆーこと?!


“債権”って、他にもあったの?


隼人の言葉に、あたしと母親は緊張が走った。




『…殺さないで…!』


母親の怯えきった顔を見るのは、これが初めてだった。


震える声は、廃ホテルに響く。



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