粉雪
―――数ヵ月後、お昼のニュースのトップを飾ったのは、

地元の港で変死体が上がったニュースだった。


車で港から海に落ち、ブレーキ痕は残されていなかったと言う。


死後、数ヶ月。


警察は、自殺と事件の両方から捜査を始めたらしい。



それから2,3日経った日、変死体の身元がわかった。


写真付きのテロップで出された男の名前は、“杉本秀樹”。


あたしと一緒に、美人局をやっていた男に間違いなかった。




―バチン!

「―――ッ!」


一緒にニュースを見ていた隼人は、無言でテレビを消した。


その瞬間、これは隼人がやったことだと確信した。


証拠も根拠もないけど、直接隼人が手を下したのだと思う。




『…ちーちゃん、海でも行かない?』


「秋だよ?」


『サンマ食いたくなったし!(笑)』


隼人は、いつもと変わらない笑顔を向けた。


だけど、あたしにだけはわかる。


その瞳の奥に、隠しきれない不安があること。



「…ねぇ、隼人…。
あたしを抱いて…?」


『―――ッ!』


抱きつきキスを落とすあたしに、隼人は目を見開いていた。



「…隼人、愛してるよ?
あたしは、何も聞かないし、何も言わないから…。」


『…ありがとな、ちーちゃん…。』


隼人は少し困ったように笑いながら、今度は自分からそっとキスを落とした。



隼人のこと、今更“怖い”なんて思わなかった。


全部、あたしのためにやってくれたことなんだから。


だからせめて、あたしも一緒に背負いたかったんだ。


殺人犯だろうと、隼人があたしの前だけで見せる顔に偽りはない。


なのに何で、居なくなったの?


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