粉雪
『…あの、お疲れ様です…。』


仕事が終わり、あたしはスタッフルームで煙草を咥えていた。


一緒に仕事を終えた香澄も、遠慮がちに頭を下げる。



「お疲れ~。
少しは雰囲気掴めた?」


『…うん。
何となくだけど…。』


「そ?なら良いけど。」



今日は隼人が遅くなるらしいから、少しだけ時間に余裕があった。


あたしの向かいの椅子に同じように腰を下ろす香澄に、興味本位で聞いてみる。



「香澄ちゃん、R女子大通ってんだって?
お嬢様が、何でまたバイトしてんの?」


『…そんなんじゃないよ…。
社会に出る前に、色々勉強したくて…。』



生きるために必死で働いていたあたしとは、大違いの理由だ。



「…千里ちゃんこそ、何でバイトしてるの?」


『自分の物を、自分で買うためにだよ。』



あたしの為にばかりお金を使おうとする隼人は、やっぱり好きじゃないから。



『あははっ!何ソレ~?』


「…別に。」


小馬鹿にされたような気になり、少しイラついた。


打ち解けたのか今度は、香澄の方が身を乗り出したように聞いてきた。



『…さっきから気になってたんだけど、彼氏いるの?
指輪してるし。』


「…別に。
そーゆーんじゃないよ。」



隼人は、人に紹介できるような“彼氏”でもない。


それに隼人のことは、未だに誰にも聞かれたくはなかった。



『…でも、それってダイヤでしょ?
自分で買える金額じゃないよね?』


「…何が言いたいの?」



バイトで生活していると思ったのか、嫌味にしか聞こえない。



『ごめん!
そーゆー意味じゃなくて!!』


「…良いよ、別に。
てゆーかあたし、そろそろ帰るわ。
エサの時間だし。」


ハッとしたように取り繕う香澄に、適当に言葉を濁して立ち上がった。




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