粉雪
『―――千里ちゃ~ん!
そのバッグ、新作じゃない?』



最近の香澄は、やたらとあたしに懐いていた。


だけどあたしは、仕事以外で関係を持とうとは思わなかった。



「…そうなの?
あたし、知らないんだよね。」



このバッグは、隼人が勝手に買ってきたものだ。



『え~?!わからずに買ったの?
もしかして、誰かからのプレゼント?』


ニヤついて聞いて来る香澄に、ため息をついた。



「…別に。
そんなんじゃないから。」


適当に言葉を濁した。


そして、適当に話を変える。



「…アンタも可愛いじゃん、シャネルのピアス。」



選ぶ話題は、香澄が好きそうなもの。


その瞬間、香澄の顔はパァッと華やぐ。



『あっ、わかる~?
パパがお土産で買って来てくれたの♪』


「ふ~ん。
良かったね。」



興味もない。


香澄の話は、いつもブランド物やオシャレの話ばかり。


そんな話、別に好きでもないし、

何より自慢気に話されると、母親を見ているみたいでイラついた。



「…でも、ネイルやりすぎじゃない?」



飲食業で働いているのに、香澄はネイルばかりを気にしていた。


誰が注意しても、それだけは一向に止めようとはしない。


あたしの言葉に香澄の顔は、不満をあらわにする。



『え~?何で??
可愛いじゃない!
千里ちゃんも、お店紹介しようか?
彼氏も喜ぶんじゃない?(笑)』


「…いらないよ。」



隼人は、そんなことをしても喜ばない。


第一、そんな手じゃご飯も作れない。




「…じゃあ、あたし帰るわ。」


『千里ちゃん、いっつもすぐに帰っちゃうよね~。』



それは、アンタと話をしたくないからだよ。


だけどあたしは、何も言わなかった。


あたしには、安っぽい友情なんて、邪魔なだけだ。



…ねぇ、隼人…


やっぱり、あたしが悪かったんだよね?



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