粉雪
あたしの生活だって、きっと誰も知らないだろうから。


外では本当に、何の変哲もない“日常”ばかりが繰り返される。


バイトをしていると、まるで異空間にさえ居るように感じて。


どっちのあたしが“本当”なのか、わかんなくなる。


そんな日々ばかりが過ぎて。




「何でアンタがここに居るの?!」


『…隼人さんに言われたから…。』



いつも通りバイトが終わると、裏口で待ち構えていたのはマツだった。



「迷惑なんだけど!
アンタみたいなチンピラにうろつかれたら、あたしまで変な目で見られる!」


『…だな。
伝言届けに来ただけだから。
“ごめん、遅くなる”ってさ。』


「―――ッ!」


そう言うとマツは、煙草を投げ捨て、足で消した。


瞬間、怒りが込み上げてきて。



「何で自分で言いに来ないの?!」



隼人にも、マツにも腹が立つ。


この地獄は、一体いつまで続くんだろう。



『…ホントに、あとちょっとだから。』


そしてマツは、顔を上げた。


『隼人さんはアンタが心配なんだよ!!
だから俺に、伝言がてら様子見に来させてるんだ。』


その言葉に、瞬間、唇を噛み締めて。



「誰の所為でこんなことになってると思ってんのよ?!
“あたしを守る”って何?!
守りたいなら、仕事辞めれば良いじゃん!!
いい加減にしてよ!!」


『…そうかもな…。』


隼人にすら言えなかった胸の内を、初めてぶつけたのに。


なのにマツは、それだけしか言ってはくれなかった。




『…送るよ。』


「いらない!」


マツを睨み付けた。



『…こっからは、俺のお節介だから。
また、あんなとこうろつかれたら、心配で堪んねぇわ。』


「―――ッ!」



隼人を止めることも出来ないくせに、生半可な優しさが苦しい。


心配して欲しいんじゃない。


誰か隼人を、あたし達を止めて―――…



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