粉雪
『…ちーちゃん、今までごめん。
だけど今日、全てが終わったから。』


ソファーに座り、隼人は煙草を咥えた。


あたしもその横に腰を下ろし、その瞳を見据える。



「…全部、話してくれるんでしょ…?」



あたしの言葉に、しばしの沈黙の後、隼人はゆっくりと口を開いた。



『…初めは、ちーちゃんの存在を隠すために、飲み歩いてたんだ。
それに、俺を刺した黒幕が知りたかった。』


「―――ッ!」


語られだした事実に、唾を飲み込んだ。


俯きながら隼人は、言葉を探して。



『…あの女は、情報を持っていた。
俺はそれを、何としても手に入れたかったんだ。』


隼人の咥えた煙草が短くなっていき、その煙が天井へと漂う。


次第にあたしの心臓の音は早さを増し、息苦しくなって。



『…けどあの女は、“私をナンバー1にしたら、情報を渡す”って言ってきた。
ずっとナンバー2に甘んじてたアイツは、俺の金が狙いだったんだ。
だから、利害が一致した。
仕方なく俺は、アイツの店に金を落とし続けてやった。』


「―――ッ!」


『…けど、ナンバー1にしてやったら、今度は“私のものになってよ!”なんて言い出してな?
正直、殺してやろうと思ったよ。』


苦虫を噛み潰したような顔だった。


聞いてるあたしも、何も言えなくて。


煙草を消した隼人は、ゆっくりと天井に向かって最後の煙を吐き出し、

消え行くそれを見つめながら言葉を紡ぐ。



『…ちーちゃんのこと想ったら、耐えられなかったんだ。
その日初めて、アンパン喰ったよ。』


「―――ッ!」


瞬間、あたしは目を見開いた。



「…それって…!」


『…シンナーだよ。
正直、あの女の体なんか見てなかった。
ちーちゃんのことだけ考え続けてた。
服も脱がせず、ただ腰振って…。』


「―――ッ!」



想像するだけで、吐きそうになって。


目の前にある景色が、白くぼやけるように霞んでいく。


それに、シンナーまで吸っていたなんて。


信じられなかった。


信じたくなんてなかったんだ。



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