粉雪
「―――隼人!
もぉ終わったから!行こっ!」


聞こえるように、笑顔で手を振った。


瞬間、隼人は目を見開いて、持っていた傘を投げ捨てた。



『ちーちゃん、危ない!!』


その声にあたしは、ゆっくりと後ろを振り返る。



『アァァァアァア!!!』


「―――ッ!」



分かったのは、ボロボロの姿の安西香澄が、

あたしに刃物を向けて走ってくることだけ。


何が起こっているのかなんて、まるでわかんなくて。


立ち尽くしていた瞬間、目の前の景色が変わった。





―ドンッ!

「―――ッ!」


気付いたら、突き飛ばされていた。


あたしの真っ赤な傘が、ゆっくりと宙を舞う。


擦りむいたのだろう膝に痛みを感じながら、顔を上げた。



「…え?
何…コレ…?」


あたしの真上で、隼人と香澄の影が重なっていた。


パサッと真っ赤な傘が、地面に落ちる音がして。



「隼人?!隼人ー!!!」



スローモーションの様に崩れ落ちる隼人の姿に、

全身から血の気が引き、慌てて駆け寄った。



『…クソ…アマがぁ…!』


『…そんな…嘘でしょ…?!
何で…庇うの…?』


腹部を押さえ睨み付ける隼人に、香澄は青ざめた顔で言葉を失っていた。


ゆっくりと離れる香澄の手には、

ハッキリとわかるほどの真っ赤なものがこびり付いていて。


雨と交わりながらそれが、水滴となって地面に色をつける。



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