粉雪
あたしには、何が起きているのかわからなかった。


ただ、隼人のお腹にナイフが突き刺さり、

雨と一緒に流れ出た大量の血が、足元一面に広がっていた。



「…嫌っ…!
隼人ー!!!」


後ずさりする香澄にも気付かず、あたしは隼人の名前を呼び続けた。


崩れ落ちた隼人の体を支えると、あたしの体中にも真っ赤なものがこびり付く。


生暖かな液体と、重たすぎる隼人の体。



『―――ァ!
…ちーちゃ…ごめっ…!
すげぇ…ダセェ…』


「隼人!喋っちゃダメ!!」


段々と唇から色が無くなっていく隼人にあたしは、声を上げた。


こんなの、何かの冗談だと信じたかった。



『…ちーちゃん…怪我…ない…?』


「…隼人の方が…大変じゃん…!」


ただ泣きながら、首を振り続けた。


12月の冷たい雨が、洗い流すように降り続いて。



『…俺は…大丈夫…。
ちーちゃんは…笑ってて…?』


「…無理だよ…。
笑えるわけないよ!!」


隼人の手が、ゆっくりとあたしを探すように伸びてきて。



『…ごめんな…ちーちゃ…。
ホントに…ごめん…』


「嫌ー!!最期みたいなこと言わないで!!」


触れられた瞬間、隼人は安心したように穏やかになって。


あたしの頬を優しく撫でる隼人の手が、冷たかった。


もぉ、焦点すらも合わなくなって。



『…今まで…ありがと―――』


「嫌ー!!!」




最期の顔は、悲しそうだった。


滑り落ちていく右手が、隼人の“死”を意味していた。


それからは、必死で心臓マッサージをした。


遠くでサイレンが鳴り響いていて、

“まだ助かるんじゃないか”って思い続けてた。




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