粉雪
―ガチャ…

「―――ッ!」


『何やってんだよ?!
死ぬ気か?!』


突然扉が開かれ、男があたしの元に駆け寄ってきた。


隼人が帰ってきてくれたんだと思ったのに…。



「…マツ…!」


淡い期待さえも打ち砕かれて。


だけどマツは、あたしに駆け寄って来て。



『アンタ、隼人さんが命懸けで守ったんだろ?!
死ぬなんて、俺が許さねぇ!』


「―――ッ!」


あたしの持っていた剃刀を握り締めたマツの手からは、鮮血が垂れた。


瞬間、思い出すのあの日の光景。




「…何で…止めるの…?
あたしが死ねば良かったんだ!!」


『…っざけんじゃねぇよ!』


マツはあたしから奪った剃刀を投げ捨てて。


それが床に転がる音が響く。



「じゃあ、アンタが代わりに死ねば良かったんだ!!
アンタ、隼人の為なら死ねるんでしょ?!」


マツの胸倉を掴みあたしは、声を上げる。


瞬間、マツは唇を噛み締めて。



『…そうかもな…。
俺が死んでも、誰も泣いてくれる人間なんて居ねぇから…。』


「―――ッ!」



言ってしまった後で、後悔した。


この世に、死んで良い人間なんて居ないんだ。



「…ごめん…。
そんなこと言いたいんじゃないんだよ…。
アンタまで…死なないで…?」


『…分かってるから…。
俺まで死んだら、アンタは本当に独りになるだろ…?』


「―――ッ!」



マツの前でも、泣き続けることしか出来なくて。


死ぬことも生きることも出来なくて、

あたしにはどうして良いかもわからない―――…




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