粉雪
バイトが終わって帰ってくれば、いつも隼人が笑顔で出迎えてくれて。


過ぎ行く毎日は、不安なことから目を逸らしていれば、幸せだった。


いつも隼人が居てくれて、そして抱き合って眠ってくれた。


だけど、少しづつ春から夏に変わろうとしていた頃、事件は起きた。




♪~♪~♪

着信:隼人


きっと、仕事が終わったから掛けてきたのだろう。


そんな風に思い、通話ボタンを押した。



―ピッ…

「は~い!」


『…ちーちゃん…!
…クッ…助けっ―――!』


「隼人?!何があったの?!
今、どこ?!」


ただならぬ気配に、背筋が凍りついた。


捲くし立てるように聞いたあたしに、くぐもった声で隼人は言う。



『…M港の…工場跡地…!』


「わかった!
すぐ行くから!!」


気付いたら、鍵を鷲掴み、家を飛び出していた。


今、何が起こっているのかなんて、全く分からない。


だけど、怖くて仕方がなかった。


“もしも”とか、“万が一”とか。


いつも、隼人は言う。


それが今、現実に起こっているようで。


運転している間は、気が気じゃなかった。


信号待ちが嫌に長く感じ、悪い想像ばかりが頭を支配した。


握り締めるハンドルは嫌でも汗ばみ、心臓は嫌な音を打ち鳴らす。


隼人!頼むから無事でいて!!


願うことは、そればかり。




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