粉雪
―ガチャ…

『ただいま~!』


「―――ッ!」


瞬間、目を見開いた。



「おかえり!」


予想より早い帰宅に、検査薬を急いでクッションの下に隠して、隼人に笑顔を向けた。


打ち鳴らす心臓の音は、隼人に聞こえていないだろうか。


作った笑顔は、隼人に何も気付かれないだろうか。


そんなことばかりが気になって。




『ちーちゃん、何食うか決めた?
超急いで帰ってきたんだけど!(笑)』


何も知らずに笑っている隼人に、胸が締め付けられた。



「ごめんっ!
考えてなかった…!」


慌てて立ち上がり、隼人の元に駆け寄った。



―カサッ…

「―――ッ!」


ゆっくりと振り返ると、検査薬が足元に転がっていた。


立ち上がった拍子に、落ちたんだろう。


だけどその瞬間、心臓が止まったのかと思った。


目を見開き、何も言葉が出ない。



『…何、それ…』


「―――ッ!」


声を詰まらせる隼人に、ゆっくりと顔を向けた。


泳ぐ目の焦点はどこに定めればいいか分からず、

隼人の顔色ばかりを気にしてしまう。



「…違うの!
あたしのじゃなくて…!」


言葉を並べようにも、何も出てこなくて。


次第に曇る隼人の顔が、ただ怖かった。




< 96 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop