粉雪
『…ちーちゃん、ストップ。
それって、妊娠検査薬だろ?』


隼人は指差すものに目線を向け、そしてあたしに聞いてくる。



『…生理、来てないの…?』


「―――ッ!」


認めることが怖かった。


隼人にバレることが、何より怖かった。




「だから、これは―――」


言いながら、拾い上げたものを急いで後ろに隠した。



『…ホントの事言えよ…!』


低く言って睨む隼人に、何も言えなくなり、唇を噛み締めて俯く。


だけど隼人は、あたしに向かって足を進めた。



『後ろにあるの、貸して!』


「お願い!止めて!!」


首を振って懇願しても、隼人には届かなかった。


易々とあたしから検査薬を取り上げ、その腕を掴んだまま離さない。



『…マジで…?』


だけど隼人の顔を見るのが、何より怖い。


掴んでいたあたしの腕を放し、背を向ける。


ゆっくりとソファーに腰を下ろした隼人は、

何かを考えるように煙草を取り出し、深く吸い込んだ。


漂う煙は、あたしの気持ちみたいにモヤモヤとしていて。


何も言わない隼人が怖かった。


次に何を言われるのかが、ただ怖くて。


その顔を見ることが出来なかった。


張り詰める空気は、息遣いひとつで揺れる。




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