青碧の魔術師(黄昏の神々)
かける言葉も見付からず、シュリを留める言葉も見当たらず、途方に暮れるイシスに向けられた助け船は、すぐ隣から発っせられた。


「ご苦労様。シュリ。イシスちゃんイジメちゃ駄目だよ」

「イジメだと? 馬鹿も休み休み言え」


シュリがまだ何も、言っていないと言うのに、漣は先手を打って来た。


「もしかしなくても、イシスちゃん、置いてきぼりにする気でしょ。お前」

「何が言いたいのか、判らんな……」

「おやま〜。とぼけちゃって。やな奴だよね〜」


最後の言葉はイシスに向けて、口にする。


「言いたい事があれば言え」


シュリの言葉は、どちらに向けられた物なのか。


「何処かへ帰られるのでしたら……私も連れて行って下さい」


意を決したイシスが、口にする、思い。

それをシュリは、唇に刻む冷たい微笑で返した。


「俺について来ると? お前はこの国の姫だろう。出来ない事は口にしない方が賢明だと思うが?」


イシスに対して珍しく冷たい態度に出るのは、今がハスターであるせいなのか。


「私の事は心配無いですよ。兄さまのお墨付きで、シュリさまの下に行けますもの」

「物好きな女だな……。なら、教えてやろう。俺は、さっきの化け物と同類だぞ。この身の内は、あの男の中身の様に醜い……」

「逸れが? 私は、一向に構いませんわ。シュリさまは、シュリさまですもの」


稟とした物言い。

毅然とした態度。

確固たる意思を現す蒼い瞳。

それらを湛えた黄金(きん)の王女は、シュリの冷たい仕打ちに怯む事無く、対峙する。

吸い込まれそうな蒼い瞳に、シュリが息を呑む。


「見ていないから言える事だろう?」


彼の真意は分からなかったが、イシスを遠ざけようとしているのは確かだった。

つつっと、イシスに向けて、シュリの左腕が持ち上がる。

それにいち早く気付いた漣が、動いた。


「このっ!! 馬鹿者!」


瞬時に飛び出した漣は、シュリが行動に移す前に怒号と共に彼の身体を地面に倒した。

思いの外、素早い行動に、さすがのシュリも対応が遅れた。

簡単に地面に倒され首を捕まれて、勢いで喉からヒュウッと息が漏れる。
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