青碧の魔術師(黄昏の神々)
漣の行動力と強さは、さすがと言って、良いのだろう。

シュリを引きずり倒した漣の表情は、父であり、兄でもあった。


「イシスちゃんに、何をしようとした? 返事如何では、考えなければならんが?」


漣は、押し付けた手の平を緩めると、シュリが話すのを促すよう、見つめた。

イシスも倒されているシュリの側に駆け寄り、床にしゃがみ込む。

皆が、シュリの、次の一声を待ち望んでいた。


「俺が姫を傷つけるとでも考えたのか?」

「破壊の左手を上げたからな。当然」


悪びれるそぶりもなく、漣がうそぶく。

その言葉に、シュリが小さく息を吐き出した。


「左手を上げたのは、この腕を壊す為……」


シュリの言葉に漣だけは、全てを悟った。


「阿呆か、お前は。そんな事して、あの腕見せてもイシスちゃんは怯まないよ。こんなお前に、心底惚れてるからねぇ。彼女」

「あの腕って……?」


漣の言葉に引っ掛かりを覚えたイシスは、何と無くだったが、疑問に思った事を口にする。

それに答えたのは、漣だった。


「私達、古き者どもと呼ばれる者には、二つの姿があってね、一つは君も知るあの姿」


そう言いながら、顎をしゃくって、シュリを見る。


「もうひとつは、人に恐怖と畏怖を与える姿」

「何の為に……」

「それは、説明しずらいな。まぁ、強いて言えば、古代の神は、人に恐れられる存在に、他ならないってとこかな」


漣の説明では、今一つしっくりいかない。


「ま、どちらの姿が真(まこと)か、と聞かれても答え難いからさっしてね」


そう話す漣に、イシスはにっこりと笑う事で答えた。


「で、問題はシュリだよね……」


漣が、言葉を濁してシュリを見た。


「何で、頑なにイシスちゃんを避ける? あの姿を見せようとしてまで」

「言わなくても、分かっているんだろう……あんたなら……」


漣の問い掛けに、シュリが、皮肉な笑みを浮かべる。


「俺は……」


言い澱むシュリに漣の瞳は優しい。


「ほっんっと、馬鹿だよ。この息子は。ま、弟でもあるんだけど……」
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