青碧の魔術師(黄昏の神々)
「猫ちゃんが……しゃべった?」


少女は、いかにも暢気極まりない声音で、呟いた。

話せる事を知られたロイは、まるで石の様にカチンコチンに固まった。

少女は、シュリから離れると、今度は固まったロイを抱え上げて、


「喋る猫ちゃんは、初めて見ました」


と、シュリに笑いかけた。

だがシュリは、少女が自分から離れたのをこれ幸いと、彼女とは反対方向へ歩き出す。


「ちょっ……! 何処へ行かれるのですかっ!?」


少女の焦る声にシュリは振り返り、感情の篭らない冷たい声で言い放った。


「あんたを暴漢から助ける事ぐらい、そいつでも出来る」


シュリは、顎を釈って少女とロイを一瞥する。

そんなシュリを見て、ロイは正気にかえると、ウルウルと瞳をにじませ、情け無い声を上げた。


「シュリ〜そんな薄情な事、言わないでよぅ〜。おいら、人間は苦手なんだよぅ〜。お願い! なっ、シュリ〜」

「ま、頑張れロイ。何事も経験だ」

「そっ……そんなぁ〜」


ロイは、少女の腕からもぞもぞと這い出ると、二本足で立ち上がり前足を胸にやり《お願い》ポーズを取って、もう一度頼み込む。


「お願い助けて」

「私からもお願いします。どうか御慈悲を……」


シュリがふと少女の方を見ると、ロイと同じポーズでシュリを見つめている。


「ぷっ……」


シュリが俯いて、声を殺して笑っている。

少女とロイ、同じポーズで、同じく首を傾けている。

シュリが本当に面白いと思っているのか、格好なのか判断が付かない。

だが、彼は笑っていた。


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