青碧の魔術師(黄昏の神々)
「なんて顔してるんだ……そんなに不安になるなら、こんな事、しなければ良かっただろう」


優しいが、はっきりとした口調は、決してイシスを責めたりしている訳では無く、呆れた様な声のトーンは、彼女への労りをも、含まれているようだった。


「違います。私は、決して、こうなった先の未来を、憂いているのでは有りません。むしろ、後悔など、一度も感じておりません!」


必死に訴えるイシスに、シュリは怪訝そうに眉をしかめる。


「なら、何故、そんな顔をする?」

「それは……」


ばつが悪そうに、口ごもるイシスに、シュリの端正に変化した顔が彼女に至近距離で近づく。

彼の顔に、懐かしさを感じるのは、イシスの中に溶け込んだ、三人の女達のせいで。

思わず見とれてしまった事に、恥ずかしさを感じつつ、イシスは笑われる事を覚悟して、シュリに正直に、自分の気付いた事を、ぽつりぽつりと話し出した。


「シュリさま。決して、笑わないと、約束して下さいますか? でなければ、私、一生、この事は胸の内に仕舞っておきますから」


半ば、必死な様子のイシスに、シュリはうなづくと居住まいを正した。

彼女の声を、真摯に受け止める為に。


「私、大切な事を一つ、シュリさまに聞き忘れて、事を急いでしまいました」

「何を……?」


不思議そうに、だが、話を進めるよう、掛けられた言葉の声のトーンに、イシスはややためらった後、意を決してシュリに告げる。


「貴方の傍らに立つ者が、私でもよろしいですか? 未来永劫シュリさまと共にあってもよろしいですか?」


祈る様な態度と声音は、シュリの一挙手一投足に、敏感に反応しそうな勢いで。

彼の言葉を待っていた。

無表情に黙り込むシュリの態度に、イシスはシュンとして肩を落とした。

「ごめんなさい……私…き」

「驚いたよ」


イシスの言葉を遮る様に、シュリが一言呟いた。


俯いてしまっていたイシスの顔が、弾かれる様に勢いよく上がる。

何に驚いたのか。

イシスの表情が、シュリに先の言葉を促していた。
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