青碧の魔術師(黄昏の神々)
半ば諦めの色が濃くなった頃、エステルは意外な項目の中に、目当ての魔術師の二つ名前を見つけた。


「王族出身の術者一覧? ……まさか」


『あいつが、ザイラスの王子? まさかな…… きっと遠縁か何かなんだろう』


「もう少し詳しい事が知りたいな……」

「何か、お調べしましょうか? 王子様」


本のページをめくり、他に何か載ってないか探しているうちに、ボソッ呟いた言葉。

気付かぬうちに発していた呟きに、返事が返るとは思わなかったエステルは、驚きのあまり持っていた本を床に落としてしまった。

慌てて拾おうとした彼よりも先に、横から別の手が伸びてきて、エステルよりも先に本を取り上げた。

しゃがんで本を拾った女が、立ち上がりざまエステルをいちべつする。

長くて真っ直ぐな金茶の髪を、頭の上で綺麗にまとめた眼鏡美人。

赤い縁の眼鏡を掛けた、紺色のスーツの女が拾った本の表紙をチラ見して、エステルに言った。


「王子、貸出禁止の本は大切に扱って下さいましね」


「君が、私を驚かせたんじゃないか……」


エステルは、相手に聞こえないようか細い声で呟く。

この女、王立図書館の司書室長で、怒らせると図書館の出入り禁止を申し渡すと言うおっかない女だ。

相手が、王族で有っても関係無い。

正当性の有る事柄においての彼女の行動は、反論の余地が無いので口答えする者は皆無に等しかった。

そんな彼女が、愛想笑い一つせずにエステルに言った。


「ザイラス王国の術者についてお調べですか?」

「あぁ……。まぁそう言った所だ」


『ごまかしても仕方が無い』


エステルの立てた計画は、時間の経過と共に白日の下に晒される。

彼女を欺けば、その時とんでもない災難が、エステルの身に降りかかるだろう。

それを避ける為には、この司書室長に協力を仰ぐのが、無難な考えだろう。


「ねぇ、イズナエル室長。貴女に頼みが有るのだが、妹のイシスの為に一肌脱いでくれないか?」



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