青碧の魔術師(黄昏の神々)

祝宴の一夜

シュリが、与えられた部屋に戻るとタイミング良く部屋をノックする音が聞こえた。

ベランダのスロープから庭に出られる様になっていた部屋の窓を開け、そろりと滑り込んだシュリが返事をかえすと、早速開いたドアから、黒いワンピースと白いエプロン姿の、お仕着せを着た女性が入って来た。

女性は、自分の身体よりも大きくてひらべったい、何かが入った箱を捧げ持って、シュリに向かって丁寧なお辞儀をした。


「私、この部屋を担当させていただきます、コロナと申します。以後、御見知り起き下さいませ。王子様から、今夜の宴の御召し物が、贈られてございます」


コロナと名のるメイドが、テーブルの上にうやうやしく箱を置き、包みを開ける。

シュリは、その動作を見つつコロナの挨拶に、柔らかく笑んだ。

処世術として学んだシュリの微笑は天下一品。

どんな女性もこの微笑みで落として来た。

落とす、とまでも行かなくても相手に好印象を与える笑顔。

彼は、その効果をよく踏まえていた。

その顔に笑顔を張り付けて、シュリが話す。


「こちらこそよろしく。明日迄、お世話になります。俺の事は、シュリと呼んで下さい」

「承知致しました。シュリ様。御召し物の御着替え、お手伝い致します」


コロナも御多分にもれず、シュリの微笑に好感をもつ。

そして彼女もにこりと笑うと、箱の中から今夜彼が着る衣装を取り出し、シュリに広げて見せた。



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