青碧の魔術師(黄昏の神々)
「ロイ、蓮に連絡を取ってシールドを頼んでおいてくれ」

「蓮? 起きてんの?」

「あぁ。何か良からぬ事を企んでいるようだがな……あのじじいは」


シュリの言い草に、ロイは溜め息をつく。


「しゅ〜り〜、仮にも自国の宰相捕まえて、じじいはないんじゃない」

「あぁん……あんな奴、じじいで十分」


ロイにはシュリの声音だけで、不機嫌な事が十分わかる。


「何でこんなに仲悪いんだろ、あの二人。似た者親子だと思うんだけどな……」


ボソボソと呟いた声は、テーブルクロスで遮られ、シュリの元へは届かない。


「ロイ……」


声をかけられ、滑り込んで来たのは、魚とマッシュポテトの乗った皿。

ロイは嬉しそうに『にゃ』っと一声鳴くと新たな皿に顔を突っ込んだ。

モグモグと一心不乱に料理に舌鼓を打つロイに、シュリが呟く様に言った。


「何か嫌な予感がする……なるだけ先手を打ちたい。頼むぞロイ」

「……了解」


シュリの真面目な声に、ロイは食べるのを止め、背筋を伸ばすと簡潔に答えたのだった。

シュリの感は良く当たる。

母方の血筋のせいで、普通の魔術師とは一線を引かれている彼だ。

『青碧の魔術師』とは、本当に謎、大き人物だった。

ザイラスが滅びてからは、文献すら灰となったので、彼どころかザイラスの歴史さえおぼつかない。

様々な事が、謎とされているのだ。

魔術師も魔女も……。

守護者や戦乙女も。

そして、かの国に住む一般の国民でさえも……。


「ねぇシュリ」


シュリはロイの呼びかけにはたと現実に引き戻された。


「なんだ?」


返事を返すシュリに、ロイが投げ掛けた疑問は。


「トレントは、どうやってあの人のかけた封印を、解いたんだろうね? おいらふに落ちないんだよ」

「俺自身もだよ。何か別の力が働いたのかも知れない」

「どんな力……?」


シュリは、ロイの言葉には答えなかったが宙を仰ぎ、溜め息を一つ付いた。

その瞳が青碧では無く、青紫であった事に、誰も気付く事は無かった。


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