青碧の魔術師(黄昏の神々)
そんなおり、エステルが現れた。


「よく似合ってるではないか魔術師殿」


エステルの第一声に、シュリは半ば引き攣ってはいたものの、王子様然と笑った。

柔らかでものおじしない微笑は、理想の王子様像そのものだった。


『エステル王子、一体何を考えている?』


そう考えながら、口では全く違う言葉を紡ぐ。


「私には、勿体ない位の高価な衣装に、申し訳無く存じます」


勿論、人目がある手前、ぞんざいな言葉や態度は使えない。

そう考えるシュリは、口調を固い物にして、エステルに答えたのだ。


「良いよ。改まらなくて。今は魔術師殿に、お願いが有って来たのだから」

「お願い……ですか?」

「あぁ。そうなんだ」


エステルは、深くうなずくと話を続けた。


「実は階段の踊り場に、妹がやって来るから、エスコートしてやって欲しいのだよ」

「俺が……ですか……?」

『こう言う場合は王か王子と、相場が決まっているのに? なのに……何故、俺?』


全くもって、この王子の考えが解らない。

部外者のシュリに、イシス姫のエスコートをさせたら、いらぬ誤解を招くだけだと、普通誰もが考えつく。

シュリは頭を捻りつつ、エステルの言葉に躊躇の態度を示した。


「どうした? 魔術師殿? 貴方は、イシスの魔術師なのだろう? ならば、あれをエスコートするのは、貴方が適任だと思うが……」


そこ迄はっきりと意思を示されては、断る理由が見つから無い 。

シュリは、仕方なく頷くと、


「解りました。御引き受け致しましょう」


そう言ってエステルを、真っ直ぐ見つめ返した。

王子が満足そうに頷いて、その場を後にする。

シュリは、その後ろ姿を見送りつつ、思考を巡らした。


『どいつもこいつも何考えてんだか……』


シュリの付く悪態がひっそりと風にさらわれる。

それぞれが、心に思惑を抱えこの宴に望もうとしていた。

ただ一人を除いては。


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