青碧の魔術師(黄昏の神々)
目を開けた本は、シュリより若干年上程度の男。

そいつが開口一番にいった台詞が、


「久方ぶりにまみえる。我等が黄衣の王にして風の神ハスター」


と言う言葉。

それを聞いた途端に、シュリはあからさまに嫌そうな顔をしてみせる。


「人違いだと何度言えは解る」

「間違ってなぞおらぬ。確かに器は違うが、その身に宿る魂は不変。かわりなきもの。ハスター様に相違ない」


溜め息を付いて肩を竦めるシュリと、文字通り頑固一徹を貫き通す男。

ルルイエ異本と交わすこの会話は、シュリとの間で幾度となく、交わされ続けてきた。

だが、いつも平行線をたどり、何の変哲もない。


「つったく……。挨拶なんぞどうでもいい。そんな事より、お前の力をかせ」

「うむ。それはもとより承知している。我は召喚の書。何を喚びたい?」


ルルイエの言葉に、少し考え倦ねるシュリは、自分の思考を率直に、ルルイエに投げ付けた。


「なんでも……と言いたい所だが、とんでもない者を呼び出されたんじゃ後が面倒だ。奴に少し、脅しをかけたいだけ、なんだがな……」

「ならば、ハスター様の僕、ではどうだ?」

「いや……あれはこの場にふさわしくない……混乱を招くだけだ」


眉をしかめるシュリの横から、漸く正気に返ったリスノー伯の、怒鳴る声が辺りに轟いた。


「何をクダクダと言っている! 人を散々馬鹿にしおって! お前達、まとめて叩き切ってやる!」


確実かつ完全に、当初の目的を見失ったリスノー伯。

シュリは肩を竦め、ルルイエは深い溜め息を吐いた。


「ハスター様。あれは馬鹿か?」


ルルイエの言葉に、シュリが苦笑いをしてみせる。


「シュリと呼べ。確かにアイツは馬鹿だ」


彼らの、決して大きくはない呟きも、地獄耳のリスノー伯には筒抜けで、
伯爵はキリキリと金切り声をあげ、理解しがたい言葉を喚き散らす。


「下品極まりない男だな。あれは。ハスター様に向かって、あのような暴言を吐くとは……」

「だから……俺は」


ルルイエの言葉に、意を唱えようとしたシュリの言葉が、ピタリと止まった。
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