青碧の魔術師(黄昏の神々)
「あの……シュリさま……」


シュリの横に立ち、声を掛けて来たのはイシス。

不安気な彼女の表情が、シュリの顔を曇らせた。


「おや? 珍しい。貴方様にそのような表情をさせるとは……」


面白そうに言うルルイエに、シュリが睨みつけるが、彼は何処吹く風か、一つも気にせず、シュリの後ろを廻ってイシスの下に顔を向けた。

一瞬、驚きの悲鳴が、彼女の唇から漏れ聞こえた。


「あ……驚かせました?」


悪びれる事なく、宙をユラユラと揺れるルルイエを、シュリが無造作に掴み、イシスの近くから引っぺがえす。

巨大な本を片手で支えるシュリの腕に、ルルイエの重さは感じない様に見えた。


「お前、彼女を脅かすな。それでなくとも不気味なのだから、自重しろ。怖がってるだろうが」

「さすが、ハスター様。見も蓋もない言い方……私だって、好きでこんな姿になった訳では……」


よよよと嘆くルルイエを見て、慌てたのはシュリでは無くて、イシスの方だった。


「ごめんなさい。私、失礼な事をしてしまいました。少し驚いてしまって……許して下さいませんか? その……」


名前を言おうとして、イシスは困り顔になった。

何と呼べば良いのか。

ルルイエ異本と、イズナエル女史は言ってはいたが。

自分が、そう呼んで良いものか、少しばかり躊躇うイシス。

逡巡していると、


「ルルイエ、と、呼んで頂いて結構でございますよ〜。姫君」

「お前……海の底に帰るか?」


シュリの手に収まった形のまま、バタバタと本のページを開け閉めして、ご機嫌な様子でイシスに話し掛けるルルイエに、シュリは冷めた声音で警告する。

その上、


「うっとうしい……バタバタするな」


と、言って、留めを刺す始末。


「ふううっ……扱い悪いですよね……そう思いません?」


呟きから最後の言葉はイシスに振って、賛同を求めるルルイエに、シュリは無造作な動作で、彼を空中へほうり投げた。

くるりと回転して、宙によろよろと浮くルルイエは、よろめきながらシュリに抗議の声を上げた。


「酷いですな、ハスター様。もっと丁寧に扱って頂かないと……」
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