先生
彩花の足がふと止まった。視線の先には椅子に座って、ステージを見つめる先生がいた。
口が微かに動いていて、よくみたら、美羽が歌っている歌を小さく歌っているみたいだった。

何かが崩れていく感じがした。

本当はわかっていた。
見たら、先生を探してしまったら、自分が傷つくことくらい。
でも、止められなくて。
心のどこかで、美羽が特別なわけじゃないっていう期待があった。

ばかみたい。
本当ばか。

視線の先には先生。
耳に入ってくるのは切ない恋の唄。
彩花は滲みだしそうな視界を必死に堪えた。
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