先生
彩花が裾を掴んだことで、少しバランスを崩しかけた先生は、驚いた声をだして顔だけ彩花に振り返った。
「おわっ!彩花??どうしてん(笑)」
先生の声を耳にしながら、彩花はすでに自分のしたことを後悔していた。

、、、あたし何してんの?

うまい言い訳も思いつかない。

彩花は先生の服を離した。

そして、俯いていた顔をあげる。
そこにはもう、涙がこぼれそうな彩花はいなかった。
いるのは、笑顔の彩花。

「先生、バレンタイン楽しみにしててなあ♪」

泣いちゃいけなかった。
先生の服の裾を掴んではいけなかった。

溢れてしまった好きを、必死にばれないように、笑顔で隠した。

「お、おぅ。楽しみにしてるわ」
先生は少し困惑気味だったけど、笑顔を見せてくれた。
彩花もその笑顔に笑顔を返す。
そして、玄関で待っているお母さんの車に向かって、また歩きだした。
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