最後の春
「やだ泣くことじゃないから」

突然泣いた裕に長野は慌てて持っていたハンカチを裕に差し出した。

「ありがと、洗って返すわ」「良いよ別に」
「いや、それだと俺が納得いかないから」

裕はまた長野に会う口実が欲しかった。このままでは二度と会えなくなるのを認めたくなかった。長野はそんな裕の気持ちを察したのかどうかは解らないが

「わかった」

とだけ言い、また歩きだした。駅に着くと17時を告げる鐘が鳴り響いていた。夢ヶ咲の駅前に設置されている時計は有名らしく待ち合わせとして利用されているらしい。

「大変だから此処までで良いかな?」

長野は改札口へ続く階段を見上げながら言った。エスカレーターが設置されてないので仮に裕たちが手伝ったとしても帰りが誰かの手を借りなければいけないだろう。裕はわかったと言い長野と別れた。
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