優しい気持ち
私とその人の距離は1.5メートル。
私はシャワールームの前に棒立ちし、その人はベットの上に座っている。

「ここおいでよ。」

そう言ってその人は自分の横を右手で二回トントンとたたいた。私はその人が言うままに隣に座った。

心臓が高鳴っているのがわかった。

いくら仕事とはいえ、なかなか慣れるものではない。少なくとも私にはそうだった。最初はいい人そうに見えても、プレイが始まると性格が変わる人や禁止プレイを強要する人はくさるほど見てきた。

それに、男という生き物はそういうものだという世間の見方以上に私には憎しみがあった。

私はセミロングの亜麻色の髪を上から下に二、三回撫で下ろし、これからその人とこういうことやああいうことをしたり、されたりするんだろうなぁ、と若干これまでの会話や雰囲気を残念に思いながらシステムの説明に入った。

「では、システムの説明をします。」

「うん?」

その人の疑問符の付いた(付いていたと感じた)返答を無視し、説明に入った。

「料金は四十分が九千円、五十分が一万円、六十分が一万二千円、七十分が一万四千円になってます。で、その時間にはシャワーの時間も入っているので大体十分ぐらい引いた時間が実際のプレイ時間になります。」

「うーん、そっか。」

「どうされますか?」

しばらく私の顔を覗き込んだ後、その人は言った。

「うーん・・・じゃあ、五十分で。」

「五十分ですね。えーっと、指名料込で一万千五百円になります。」

その人も結局は男だから性欲というものはあるのは仕方がない。が、やはり五十分もの間、全くの他人に自分の体を弄られ、弄ばれるのは不愉快だ。その人もプレイになればどうせ豹変するだろう。初めて会った時の印象が良かっただけに、一層残念に感じるかもしれない。

でも、そんな一時的な心情はすぐ消え去っていくだろう。そう確信していた。

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