治樹と未来
その日の夜、私は複雑な気持ちでいっぱいになった。

今までに見た事のない彼の一面を見て、心が締め付けられた。

そんなに辛い過去を背負ってるなんて。

私に何ができるんだろう。

それと同時に、彼には今でも忘れられない人がいる。

その事実が、もっと私の心を締め付けた。

だけど、その事があってから、私と彼は一気に近くなった。

《友達以上、恋人未満》

それが私達の関係に一番適した言葉だった。

それでもいい。

彼のそばにいたい。

私達はそれ以来、亡くなった彼女の話を口に出す事はなかった。

だけど私は、彼女への彼の想いを考えない日はなかった。

そしてそれから3ヶ月が経ったある日。

彼から大事な話があると呼び出された。

嫌な予感がした。

やっぱり彼の中で前の彼女の存在は消えていないんだろうな。

どっちつかずの私との関係に、終わりを告げようとしてるんだろうな。

だけど私は彼と一緒にいたい。

たとえ届かない気持ちでも、ちゃんと自分の気持ちを伝えよう。

私はそう覚悟を決めて、待ち合わせ場所へ向かった。

この日は珍しく彼の方が先についていた。

【ごめんね。待った?】

【今来たとこ】

【そっか】

【大事な話って何?】

私がそう言うと、彼は私の目を見て、何かを話そうとした。

【俺さぁ・・・】

【私ね、治樹の事大好きだよ。
治樹が亡くなった彼女の事を
今でも思ってる事は分かってる。
だけどね、私頑張るから。
治樹に好きになってもらえるように
頑張るから。
だから終わろうなんて言わないで。】

【終わる?!お前何言ってんの?】

【だって・・ 別れ話しに来たんでしょ?】

【別れ話って・・ 
俺ら何も始まってないじゃん】

そうだった。

私達、ただの友達だもんね。

私が勝手にそばにいただけ。

何だか自分の勘違いがとても恥ずかしくなった。

【そうだったね】

私はそう言うと、彼の顔を見ることができなかった。

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