マリオネット・ワールド <短>



それ以上の無駄話は必要なかった。


二人は互いに、渦巻く胸の内を抑えながらも、それを言葉にすることを躊躇っていた。



……いや。

“躊躇う”というには、おかしいかもしれない。


心の内は、互いにきちんと理解していたから。

ただ、かといってそれを伝えたいという衝動に駆られてはいなかっただけだ。



そんな時、二人並ぶ先に、映画館の看板がそびえ立っているのを、同時にその目の中へ捕える。



流行りのラブロマンス。

アクションばかりがやたら派手で、大したストーリー性もないハリウッド映画。


そして、完全犯罪を目論む殺人鬼のミステリー。



鳴海悠は、映画を好んでよく見た。

佐伯歩は、その真逆。


けれど、その真意は同意。



女の映画鑑賞は、バカらしさにほくそ笑むためのストレス発散。

そして男は、バカらしい映画を時間の浪費だと思っていた。


要するに、二人にとっては、映画を始めとし、世の中に溢れたものなど、

全てがバカらしいものに過ぎないのだ。



“完全犯罪は可能か?”

看板に大きく描かれたその謳い文句に、二人の視線は惹かれた。



そしてついに、二人の計画の始まりは、佐伯歩がふと零した心のほころびから始まった。



「なぁ。完全犯罪は、有り得ると思うか?」



その失言ともいえる、何かの始まりを予期する言葉に、鳴海悠の胸は躍る。



何かが起こる。


胸の奥底で燻っていた、

長らく待ち焦がれていた、何かが――


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