切なさに似て…
「…なぁ、柚果。あれ覚えてっか?高校1年の時のあれ…」

信浩の言う“あれ”は多分あの話だ。

「うん。あれでしょ?」

「そう、あれ…」

「あれが、…どうしたの?」


真っ暗な中、2人して合言葉みたいに“あれ”で会話する。

私と信浩の約束。

約束って言っていいのか、そのあたりは曖昧だけど。


「いや…、覚えてんのかなと思ってさ」

「覚えてるよ…」

「あの頃は早く大人になりたくてしょうがなかったのに。いざ大人になってみると、あの頃に戻りたいとか思わねーか?」

「思うっ!」

体を揺らすくらい賛同した私が寝そべったベッドがギシッとしなる。


「一番楽しかったかもなー。よくみんなここをたまり場に使ってたよな。あーあ…、戻りてーな」

「戻れたら何するの?」

感情の篭った声で呟くから、堪らず聞いてみた。


「そーだな…、やり残したこと全部やりたいな。青春ってヤツ?…柚果は?」

信浩は含みのある笑いを零し、話しを私に振る。


「私は…。信浩と同じかなぁ」

一瞬考えたあと、そう答えていた。

信浩のやり残したことが何なのかは聞かなかったし、私がやり残したことも聞かれなかった。
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