切なさに似て…
次の日、帰ろうと会社を出たところで一弥に呼び止められた。

街灯に照らされた男女の影は、外へ出てしまえば“結城さん”でもなければ、“立花さん”てもなかった。


「柚…、話があるんだ」

「一弥…」

皆まで言わなくても、その話は想像がつく。


一弥から別れ話を告げられた。

「俺、彼女にはいつも傍にいて欲しいから」

ごめん、別れて欲しい。そう申し訳なさそうな顔で言ったけれど、一弥がそんな顔をする謂われはない。


「うん…。わかってる」

それだけ言った私に、もう一度『ごめん』と謝った。先週の土曜日には『愛してる』と言ったその口で。


わかってる。って、何を?

自分が吐いた台詞に、頭の中で自問した。


謝られるようなことをしたのは一弥じゃない。

利用するだけ利用し尽くしたのは私だ。


それでも、罪悪感はこれっぽっちもない。

私はまた別の人を見つければいい。

顔はついていればいい。

性格は人並みであればいい。

条件はその口調と仕草と香り。


捧げるのは一握りほどの“愛情”であって、共にする生活じゃない。
< 162 / 388 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop