切なさに似て…
「えっ?買うときテスターで嗅がなかったの?」

「そーいや、試さなかったな。説明書きにカシスオレンジって書いてあったの見ただけ。なんか柚果っぽいなー。って」

「ふーん…」

素っ気ない言い方をして香水の箱を袋ごとテーブルに置き、すぐに口を開く。


「電気消していい?」

「いいよ」

その返事を聞いて、私は腕を伸ばし電気の紐を引いた。


下ろした手首から甘い香りが放つ。

布団に潜り込むと手首を鼻に押し付けた。

思い出したかのようにいきなり袋を投げつけてきて。

『なんとなく』って。

『たまに』とか。

『なんか柚果っぽいなー。って』なんて。


しかも。

…カシスとオレンジ。


やめてよ。

嬉しくなっちゃうじゃない。


聞こえてくる寝息が心地いい。

このさりげなさが堪らない。

嬉しくてどうしようもない。



今日の海だって…。

一弥から別れを告げられて、独りきりの土曜日を迎えるのかと思ったら淋しくなった。


土曜日の夜は信浩も彼女に会いに行って、部屋に帰って来ないから。

独りぼっちの土曜の夜は、しんどいかなって思ってた。


信浩はそれを『なんとなく』察知して海に連れてってくれた。


ありがとう。って言えないのもしんどい。


このまま一緒にいたら、抑えが効かなくなりそう。

早く部屋を借りて、信浩から離れようと思ってみても。


心の何処かで、離れたくないって駄々をこねてる私がいる。
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