切なさに似て…
洗濯はしたし焼鳥もなくなって、500円玉を貯金箱に預けた私は、敷いた布団の上で足を伸ばす。


「あ、そーだ…」

信浩はベッドから下りると、クローゼットに掛けられたスーツのジャケットから紙袋を取り出し、布団の上に放り投げた。


「何?」

下ろした視線を戻すと、信浩はさっさとベッドに寝転んでいた。


「香水」


…香水?

眉を真ん中に寄せた私に、信浩は開けてみ?と、声を振り下ろす。


普通の茶色い紙袋をがさがさと音を立て開けると、濃いピンク色をした箱が2つ入っていた。


スルタンフェアリーローズ、ジャンヌアルテスの香水が2個。

「トップにカシスとオレンジと…。なんつったっけ…?とにかく、カシスオレンジだ」

信浩はそう言い、頭をボリボリ掻いた。


とにかく、カシスオレンジだ。って、意味がわからない。

誕生日はまだまだ先。

それに、プレゼントは私に任せるって言ったはずなのに。


「何で?まだ誕生日じゃないのに?」

「んなの、なんとなくに決まってるだろ」

当たり前みたいに言われてしまうと、それ以上聞けなくなってしまった。

「ふーん…」

なんて言って、ピンクの箱から取り出した香水の瓶もピンクで、手首に一吹きするとたちまち甘ったるに香りが鼻の奥をくすぐる。


「…甘っ。ほんとに、…信浩もつけるの?」

「たまに。…つーかほんとに甘いな」

と、ボソッと言ったあと、笑い声を漏らした。
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