切なさに似て…
「は、治が…、父親っ!?」

「天変地異じゃん…っ!!」

過剰に反応した麻矢と私に、治は手にしたグラスをガタッと音を立てテーブルに置き、私達を睨みつける。


「悪いのかよっ!」

噛み付くように怒る治の表情は幸せに満ちた顔をしていた。


「悪くないけど…、あのバカばっかやってた治が…。父親って…。想像つかないんだけど!」

「そうそう、アイス早食い競争して授業中にトイレに駆け込んでた治がだよっ?」

私が出した大声に反応して、麻矢も大きく口を開き声を上げる。


「ほーんとっ。音楽の中山に音痴って罵られて、歯向かって誰よりも多く、シンバルビンタくらってた治がだよ!?」

「あと、何もしてないのによくうるさいって怒られてたよね?」

治を間に挟み、興奮気味に私と麻矢は治の頭上で昔話に花を咲かせていた。


「なっ。お前らな~っ、そんな昔のこと引っ張り出してくんなっ!」

お酒が入った治の顔はより真っ赤に変化し、眉を吊り上げ私達を交互に睨む。

水を一気飲みし、乱暴にグラスを置いて。


「帰るぞっ!」

照れ隠しなのか、急に立ち上がり私達を置いてスタスタと店の入り口へと歩を進めた。


私の目線は、会計をしている治の後ろ姿を追いかける。

治も麻矢も、私の記憶にあるあの頃の幼さは抜けていて、確実に時は進んでいることを教えてくれていた。
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