切なさに似て…
「お前がそんなんだから信浩は他に女作ってたしよ。信浩が他に女いたからお前も男んとこ行ってたんだろ。お前らの気持ちもわからんくはないけど…」

そこまで言うと治は、薄く残っていた3杯目のジントニックを軽々と飲み干し、カウンターの奥にいる店員に「すんませーん、水下さい」と告げ、氷が敷き詰められ新しく出されたグラスに口をつける。


「あんま飲み過ぎると、嫁さんに怒られっから」

って、ニヤっと意味深に笑いを浮かべて、タバコの火を消した。


「ちょっ!治っ、それはリアルだからっ!」

隣に座る麻矢が治の腕をバシッと叩き、「やめてよ、夢から醒めた気分じゃんっ!」と笑い飛ばす。


「仕方ないだろ、本気で怒られんだからよ」

治はそう笑って一息つくと、すぐに真顔に戻り言葉を紡ぐ。


「あいつは母親亡くして…、すぐに父親再婚したからさ。父親の母親への想いに不信だしよ。
お前はお前で色々あるしよ。
…お前らの親に対しての不信感はわかるけどよ、自分らで作りゃあいいんじゃね?
それで幸せなら文句ないし、不幸せになったとしても。そんだけお互い好きなんだったら、悔いもないだろ。
自分で作る家族って、意外に悪かないぜ。
…なんてな。俺、来年父親になるからだろうな?今日わかったんだけどな」

途中まで、淡々と心に刺さる言葉を発していた治は、どさくさに紛れたカミングアウトのせいで、私と麻矢は口と目をあんぐりと開け放した。
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