切なさに似て…
「バカじゃないの!妹だって思ってないくせにっ!」

レナの投げつけた一言に、私はカッと目を見開き片方の手を振り上げる。


強がるレナに苛立ちを覚えて、その掲げられた手の平はレナの右頬を強く打ち付けた。


生じた音は、パシーンッと思い切りいい音を立てる予想をしていたのに。ペチッと鈍い音で、何とも緊迫感に欠けていた。

それでも、咄嗟に出た手の平には少しジンジンと熱を帯びる。


治も麻矢も役に成り切っていたけれど、聞き分けない子供を黙らせた私も、大概演じるのは得意な方だった。

すっかり大人しくなったレナは方手で頬を押さえ、ただただ私をきつく睨む。そんなレナの腕を引き、麻矢たちの待つタクシーへと乗り込む。


助手席に座る治が後部席へと頭を動かし。

「やれやれだな」

私達に浮かべた苦笑いを見せた。

「位置的に先に柚たちだね」

麻矢は運転手さんへ行き先を告げる。それは、私たちの家ではなく、信浩のマンションだった。


住所を復唱したタクシーの運転手は、ゆっくりと車を発進させる。


それぞれの憩いの場でもあり、賑やかで華やかな裏には、決して治安がいいとは言えない物騒な夜の街。


日は変わったとはいえ、まだまだ眠ろうとはしない騒々しい街をバックに、私達を乗せたタクシーは遠ざかって行く。
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