切なさに似て…
短針は0を越し、長い針は10の数字を通り越していた。


「タクシー拾おうか。治も柚も真っ直ぐ帰るしょ?」

そう言った麻矢に頷き答えた私と治を残し、麻矢は縁石ギリギリの場所に立ち車道へと身を乗り出した。


「あのオッサンからいくら金出したのか知らんけど…。貰っとけば?タクシー代だな。ガキはさっさと帰って寝ろ」

治は笑みを零し、がっちり捕まえていたレナの腕を静かに離す。


「…帰る場所なんかないっ!余計なことしないで!」

唇を噛み締めたレナに、治は冷たい視線を浴びせる。

「ほんとかわいくないな。意気がってたって、どうせ初めてだろ。初めてがあんなオッサンでいいのか?お前らの家庭の事情に、俺が口出すことじゃないけどよ…。ガキの寝る時間は過ぎてんだよ!」

そう治は言い捨てると、離れた場所でタクシーを呼び寄せた麻矢の元へと向かう。


私は重たい息を吐き、レナの腕を取る。すると、レナは思った通り腕を振り回し、極端に嫌がり暴れ狂う。
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