切なさに似て…
ストックしてあった服に着替え簡単に身支度を済ませた私は、テーブルの上の置き鏡の前を陣取った。


「…置いとくぞ?」

そう頭上に落とされた声にチロッと目線を移す。

鏡の横に置かれたカップには淹れたてのホットコーヒー。


「んー…。あっ、はみ出した。いいや適当で…」

ポーチからこぼれた化粧品をしまい込む。

所要時間15分の適当メイク。

「短っ。いつももっと時間かけるじゃん」

膝を丸め座椅子にお尻を落とした信浩は、眉を寄せ私を見ていた。


「今日は土曜日だし、気合い入れる必要ないもん」

「そーいうもん?」

「そーいうもん」

そう言い返しコーヒーの入ったカップを両手に包み、一口啜った。

ブラックコーヒーの苦みが舌に絡まり口内に広がる。


朝は苦手でも、この穏やかな一時はお気に入り。


「あぁーあ…、ずっとこうやってぼーっとしてたいなぁ」

「お前、ぽ~っとすんの好きだもんな?」

信浩はニヤッと口元を上げ怪しい顔をする。


「ぽ~じゃなく、ぼーだから。ちょっと違うよ」

「いいや、お前はぽ~だから。アホみたいにな」


ぽ~って、ほんとアホみたいじゃない?

その表現に納得がいかない私は、おかしそうに笑う信浩を睨んで、一緒になって笑った。
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