切なさに似て…
飛行機で2時間30分。

折角の窓側の席だというのに、夜景を楽しむ余裕はなく、黒く染められた雲を貫く中ぼんやりと眺めていた。


空港を背にし、右も左もわからない土地勘に、ようやく信浩の元へ来たという実感が沸き上がる。

治から受け取ったメモを握りしめ、タクシーに乗り込む。

この住所だけを頼りにして、自力ではとても行けそうにない。


ここは…、何処だ?

そんな状況で公共機関を利用して、もし辿り着けなかったらそれこそ、わざわざ来た意味がなくなってしまう。そればかりか野宿だってありえてしまう。

時間は21時目前。


いくらなんでも信浩だって帰宅しているだろう。

最悪の状況を想定しながら、逸る気持ちは落ち着かない。

なるべく急いでください、とも言えず。

近くまでなんとか行ければいいんで。なんて切羽詰まったような声で、タクシーの運転手さんに無理を言ってしまったのは否めない。


「住所を見るとこちらのマンションですねー」

タクシーに揺られること40分。賑やかなネオンから少し離れた沿道で止まり、運転手さんが後方へ顔を向けそう告げた。


幾重にも皺が出来た住所が書かれた切れ端と、暗闇に包まれた車窓の向こう側を交互に覗く。

「多分、ここであっていると思います」

何の確信もないのに曖昧にそれだけ伝え、いそいそと乗車料金を払いタクシーを降りた。
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