切なさに似て…
視線を上へ向け、闇に溶け込んだマンションの最上階を見上げる。

1506号室。…って、えっと…。

空を見上げ、15階ってこと?と、窓を下から順に数えていると、背中にタクシーが走り去るエンジン音が聞こえる。

一人取り残された私はしばらく、霞がかった空の下にそびえ立つ、闇で形が消えたマンションを見上げたまま、その高級そうな出で立ちに圧倒されていた。


マンションの自動扉を潜り、いかにも高級感漂うエントランスを抜ける。高級でいて質素な黄色い照明は心が落ち着くどころか、逸らせる。

オートロックの機械の前に立つと、意味もなく足が震えるのが全身に伝わり、指にまで緊張が走る。

吹き出す汗は、暑さのせいではないのは確かだと思う。


紙に殴り書きされた1506号室、その部屋番号をプッシュし呼び出す。

ホールに虚しく響かせるチャイムの電子音。


何度か鳴らしてみたものの、応答がないことから部屋の主は不在だと知らせてくれた。

…土曜日だから、飲みに行ったかな。歓迎会とか…、有り得る。


これを、骨折り損のくたびれ儲けっていうんだろうか。

気持ちは正直で、留守とわかるや否や、落胆にも取れる安堵の溜め息が自然に零れ出た。
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