切なさに似て…
キョロキョロと落ち着かない私の瞳には、相変わらず複雑そうに眉を寄せた信浩の顔が移る。

信浩は屈み腰で、濡れた地面に叩き付けられ、困り果てていたバッグに腕を伸ばした。


一連の行動に意味がわからない私は、じっとその横顔を見つめていた。不意に引っ張りあげられた手首には力が込められる。


「風邪ひく」

ボソッとそれだけ言って、私の手を引きエントランスへと向かって歩き出した。

「ちょ、…どこ行くの!?」

強引に腕を掴まれて歩き出された私は、あまりにもわかりきったようなことを聞いてしまう。


「は?俺の部屋だろ?」

それを聞いて、そりゃそうだ。と、納得したのはすでにオートロックを解除し、自動扉が開いたからだ。


「えっと、でもそこにはあの人がいるんじゃないの?だったら…」

「どの人?」

「痛っ!」

「そりゃ、力入れてるからだろ」

握られた手を持ち上げられ、さも当たり前みたいなことを言い返された。


意味がわからない。
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