切なさに似て…
横に広がる鉄筋コンクリートの建物。

事務所の裏口から社内へ入り込む。


ピット場と繋がっているため、ほとんど開け放し状態で、冬場は常に冷えている会社内。唯一暖かいのは、休憩所と応接室と事務所くらい。


オイルの臭いが染み付いた建物の奥から聞こえてくる、ガンガンッと何かを叩く鈍い音は隣の倉庫からのもの。

「おはようございます」

「おはようさん」

擦れ違う整備課の社員さん達と挨拶を交わす。

それに加えて、たわいもない会話も交じる。

「今日はえらい寒いな」

38歳の天野さんは寒いと言わんばかりに体を縮こめる。


「ほんと寒いですよね」

「柚ちゃん眠そうだなー?さては彼氏としっぽり…」

セクハラまがいのことを平気で口にする。


「あはは、違いますよ!ちょーっと、夜更かしですって。そういう天野さんも昨日飲み過ぎたんじゃないですか?」

「わかる?」

「はい。だって、顔むくんでますよ?」

と、自分の頬を両手で押さえて見せる。


「つい、寒いもんだから」

「あんまり飲み過ぎると奥さんに怒られますよ?」

「それを言っちゃうかい!?柚ちゃんには敵わないなぁ。おっともうこんな時間か。じゃっ、柚ちゃんも早く事務所行かないとお局様に怒られるよ」

「ははっ…」

“お局様”というキーワードに苦笑いを浮かべ、引き攣る頬はなかなか戻らない…。


今日も健在なんだろうなぁ、お局様は。
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