切なさに似て…
7時20分。

更衣室のドアを開けると先客いて、それがお局様だったので緊張した声で挨拶をする。


「おはようございます」

「あら、おはよう。今日は早いのね?」

「はい。昨日は遅くなったので今日はさすがに遅れるわけには…」

早くも嫌味を飛ばされたにも関わらず、私はにこやかに返す。


8時出社だというのに、7時45分に事務所入りしなかった時点で遅刻扱い。昨日、7時46分に出社した私は、お局様のお怒りを一日中食らっていた。


「わかればいいのよ。ところで…、あの子遅いわね。今日も遅刻かしらね、これ以上続くようなら本社と相談ね。本当に近頃の若い子は何考えているんだか…」

お局様はぶつくさ小言を言いながら、更衣室を出て行った。

「っと、早く着替えなきゃ…」

せっかく早めに着いて間に合ったのに、事務所入りが遅くて遅刻とか…、避けたい。


殺風景なスチールのロッカーに荷物と私服を詰め、代わりに制服を取り出した。

ブラウスのボタンにピラッとしたリボンをつけ、センスのかけらもない紺色のスカート、ベストにジャケットを羽織る。

髪を後ろへと引っ詰めて、シャチハタ付きボールペンと携帯電話をマナーモードにしてポケットにしまい込んだ。


よしっ!

お局様が言う社訓の“身嗜み”は完璧。

爪は伸ばさない。髪は束ねる。派手な化粧はしない。アクセサリー禁止。携帯はマナーモード。制服を着崩さない。

お局様の澤田さんが、あの忌まわしい事件後、赴任して来たのちに加えられた学校の校則のような社訓。

澤田さんのことをみんなはお局様って呼んでるけど。

…ピッタリだと思う。
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