切なさに似て…
ピッタリとくっついている柚果の身体を引きはがして、その潤んだ瞳をじっと見つめる。

狭い肩に肘を乗せ、小さな頭を手に包み引き寄せる。

近づく唇にそっと触れるだけの短いキスを。


「みんなに見られてるぞ?」

と、言えば、柚果は異常なくらい反応して、周囲をキョロキョロと挙動不審に見回す。


「公衆の面前でなにすんのよ」

不満そうな上目遣いは、この時ばかりは迫力もない。


キッと釣り上がった目尻。ぱっちり開いた瞳はもう渇いていて、俺を恨めしげに見つめている。

わざと口角を上げてニヤッとした俺を、更にきつい視線を浴びせた時。


再び細い身体を引き寄せて、愛おしいほど柔らかい声を耳元で囁いた。


「もう大丈夫か?」

静かに首を縦に振っただけの返事。ギュッと俺の背中に回された細い腕に力が加わる。


「よしよし」

子供をあやすように頭を撫でると、いきなりバッと身体が離れた。


「子供じゃありませんーっ」

と、また眉が吊り上げる。


「似たようなもんだろ。それより、搭乗手続きしないと飛行機に置いてかれるぞ」

俺はそう笑って答えると、柚果は携帯画面を開いて時間を確認すると。


「そうだね」

しっかりと頷くと、足元に放置されていたバッグの持ち手に手をかける。
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