切なさに似て…
「待ってたよ」

高級感溢れるマンションの一室を呼び出すインターホンから聞こえた声。

ガチャンとオートロックが開けられ、自動扉が動く。

1階に降りていたエレベーターに乗り込み、最上階一つ手前の12のボタンに指をかけた。


ホールと廊下の隅々まで行き届いたゴージャスな照明。床といい、壁といい、外観といい、これで1DLKの間取りだなんて質が違い過ぎる。

私の住んでいた自宅や、通っている信浩のマンションとは雲泥の差だ。


初めて訪れた時はどぎまぎ戸惑ったりしたものの、毎週土曜日に足を運ぶ今となってはお手のもの。


ピンポーン…。

2度目のシックな呼び出し音。その余韻もなく開けられた上品な玄関ドアから、はにかんだように笑顔を覗かせた結城くん。


「待ってたよ」

腕を引き寄せられ、結城くんの胸の中で再び囁かれた言葉。


愛しそうに、淋しそうで、不満そうな。

そんな全てを兼ね備えているような口調。



私の髪に指を絡めながら頭を押さえ付ける。

ふわっと包まれるスカルプの香り。


耳の奥を擽る熱い息遣い。

「ずっとこうしたかった…」



その口調に。その仕草に。その香りに。

溺れそうになる意識。
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