切なさに似て…
体が引き離されたのと同時に意識を取り戻す。

「ご飯にする?風呂にする?それとも…、俺にしとく?」

色っぽく唇の端を上げ、笑みを漏らす彼。


2年前、別の営業所からうちの営業所へと配属された機械課のチーフ。

結城 一弥(ユウキ イチヤ)。25歳。今時珍しい黒髪は整髪料を使っていないのに艶っぽく綺麗。


「お風呂にしとく」

笑みを浮かべ、引き込まれそうになるほどに潤んだ漆黒の瞳を、引き離すかのように私はそう言い、キッチンの奥の脱衣所へと右足を踏み出した、その時。

腕に強い力が加わった瞬間、グイッと引っ張られた体に衝撃を受け、思わず目を瞑った。

「…行かせない」

顔面に吹き掛けられた息にゆっくりと開いた瞼。


その瞳に映し出された一弥の余裕なさげな表情と、余白を埋める天井の模様。

ひんやりとしたフローリングの床を背に、一弥は私の上に跨がり覆いかぶさっている。


「柚…、愛してる…」

塞がれた唇は熱くて、隙間に入り込める絡めた舌は蕩けそう。
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